まずノートを見せてくれたのは、植原亮輔さん。「色々描いているうちに、これいいなというのを見つけました」と試行錯誤の過程を説明してくれました。
植原亮輔さん(以下、植原)最初は身近にあった器を描いてみました。でもこれなら誰でもできると思って。せっかくだから自分なりの使い方を見つけるために、今度はバラを描いてみたけど、描きづらかったんです。
陶器とバラのデッサン。どちらもとても美しいのですが、違いはなんだったのでしょうか。
植原無機物と有機物の違いですかね。白と黒を使い分ける際に、急に左脳に切り替わる現象が起きて、集中できなかったんです。有機物と向き合うには、自分の頭の中も有機物のようにならないといけない。超感性的になっていないと描けません。
次に見せてくれたのは、方眼罫が白と黒で塗りつぶされたページ。
植原これ、何気に文字が描かれているんです。僕は方眼で文字を作ることが結構あるので、自分でルールを決めて描いてみたら、面白いグラフィックができてきて。楽しくなっちゃいました。
植原例えば、この『i』の文字。上の点が◇なのか□なのか、デザインとしては大きな違いです。それぞれの形に集中して見てみて、どちらが良いか考えてみる。黒だと強いから難しいけど、白だと優しい色合いなので、どちらかを集中して見てイメージするということができます。
次のページに描かれていたのは、白の線で描かれた「Beau(フランス語で「美しい」の意)」の文字。
植原これは今デザインしている仕事で使う文字の検討。例えば『B』の形の色々なバリエーションを白で描いてみました。その後、これだと思った形を黒で清書していく。文字の形を探るのには良いと思いましたね。
横で見ていた渡邉良重さんが「文字に限らず、ちょっと白で下書きをして、というのはあるかも」と見せてくれたのは、可愛らしい白熊のイラスト。白で描かれた白熊をベースに、ポイントで黒が使われています。
続けて見せてくれたページには、美しいレース柄が。
渡邉良重さん(以下、渡邉)白が描けるというのはいいですね。今まで白いものを表現したいときは、黒で描いてパソコンに取り込んで反転させていました。それが自分の手元で、最初から白で表現できてイメージできるというのは新鮮です。もちろん黒やグレーの画用紙に白で描く手段は今までもあったけど、日常的なノートにそれができるというのは新しいかもしれません。
渡邉さんが話す横で、ノートにランダムに線を引き続ける植原さん。
植原やっぱり描くっていう行為がいいですよね。パソコンだと効率的に作業できるので考えなくなっちゃうところがある。手描きだと、いちいちこれはどうかな?と考える。時間がかかる分、思考します。
渡邉私も手で描くことは多いですけど、手描きとパソコンでは表現が変わってくるので、作品ごとにどちらが向いているかなと考えて、使い分けています。
植原僕にとってはパソコンで描いているときは少し左脳が入ってくる。逆に、手描きはほとんど右脳の感覚で、余計なことを考えない。それはすごく幸せなこと。
最後に、白と黒で書くノートは、左脳と右脳どちらが働くか聞きました。
植原どうだろう。少し左脳的かなと思ったけど、今の線画は何も考えず引いていた。バランスだけ考えながら。たぶん人や使い方にもよる。こう使ってくれではなく、使いながら、その人なりの使いやすさを発見していくノートなんだと思いますよ。